年金の構造

賦課方式の年金制度は、
一定の人口構造を前提に設計されている

その前提がどう置かれ、どうずれてきたかを、制度史と公表されている統計から順に示す。 解決策は書かない。何が問題なのかを先に精密にする。末尾の補論に、置き方を1つだけ置く。

このサイトが言うこと

制度の前提は繰り返し変更され、実績はその想定からずれ続けている。 設計時に示された姿は、そのままでは実現していない。 その背景には人口だけでなく、経済の状況と給付調整の仕組みがある。

この主張に、因果の証明は要らない。年金制度が出生率の低下を引き起こしたかどうかは、 この主張の成否に関係しない。必要なのは次の3つだけで、いずれも公表されている資料で確かめられる。

  1. 制度が置いていた人口の前提は何だったか
  2. その前提と実績がどれだけ離れたか
  3. 前提が外れた結果、制度は何を変えて維持してきたか

「維持できない」の意味

財政検証は「制度は維持できる」と言っている。矛盾しないよう、言葉を定義しておく。

言わないこと
給付が止まる。財政が破綻する。制度が消滅する。
言うこと
制度が設計時に約束した姿での維持ができない。維持は、給付水準を下げ、受給開始を遅らせ、 支え手の範囲を広げ続けることによって成り立っている。

「維持できる」と「調整の終わりが遠のく」は両立する

所得代替率が 61.2%(2024年度)から 50% 台へ下がる見通しは、それ自体では「約束からの逸脱」の証拠にならない。 2004年の改正は当初から給付調整を予定していて、基準ケースで 59.3% → 50.2% への低下を見込んでいた。到達点はほぼ同じである。

違うのは、そこへ至るまでの時間である。各回の財政検証が示した「給付水準調整の終了年度」を並べると、次のようになる。

検証足下の
所得代替率
調整終了の見通し終了後の
所得代替率
2004年 財政再計算59.3%2023年度 基準ケース50.2%
2009年 財政検証62.3%2038年度 基準ケース50.1%
2014年 財政検証62.7%2043〜2044年度 50%を保てる 5/8 ケース50.6〜51.0%
2019年 財政検証61.7%2046〜2047年度 50%を保てる 3/6 ケース50.8〜51.9%
2024年 財政検証61.2%2037〜2057年度 50%を保てる 3/4 ケース50.4〜57.6%

人口の前提はいずれも出生中位・死亡中位。2004年と2009年には「基準(基本)ケース」が置かれていたが、2014年以降は置かれていない。 2014年は一元化モデルの値(従来モデルでは 64.1%)。2024年の終了年度は基礎年金の調整終了年度で、報酬比例部分は 「成長型」では調整なし、「過去30年投影」では2026年度に終了する。

2004年に 2023年度とされた終了年度は、その後の検証で 50% 以上を保てるケースを見る限り、 2009年に 2038年度、2014年に 2043〜2044年度、2019年に 2046〜2047年度と後ろへずれた。 2024年は経済前提の置き方が前回と変わり、単純には比べられない。成長ケースでは終了が早まる一方、 「過去30年投影」の 2057年度は、前回の低成長ケースで機械的に調整を続けた場合の 2053〜2058年度と同程度である。 一方向には言えない。確かなのは、2004年に示された 2023年度という見通しが実現しなかったことである。

ずれの理由は国自身が説明している。2009年の検証は、足下の賃金が伸び悩む一方で基礎年金には物価を下回って改定しない特例があったため 所得代替率が上昇し、基礎年金の調整をより長く行う必要が生じた、と書いている。 2014年の検証は「マクロ経済スライドの発動が遅れているため、調整終了年度は延びる」と書いている。 マクロ経済スライドは物価や賃金が下がる局面では働かない仕組みで、 実際に発動したのは 2015年度が最初だった。 発動の遅れは、他の条件が同じなら、現在の給付水準を高く残す一方で、将来の給付水準を低くする。 足下の所得代替率は 2004年の 59.3% から 2009年の 62.3% へ上がり、 2014年は同じ従来モデルで 64.1% だった。 出典: 厚生労働省年金局数理課『平成21年財政検証結果レポート』p.271『平成26年財政検証結果レポート』第1章厚生労働省「平成16年財政再計算」年金財政ホームページ

所得代替率の定義はこうなっている。

所得代替率=(夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金)/現役男子の平均手取り収入額

分母は現役男子の手取りである。現役の手取りが下がれば、率が維持されても年金の実額は下がる。 「50% を維持」は「今と同じ生活水準を維持」を意味しない。 そしてモデル世帯は、夫が厚生年金・妻が第3号という 1985年当時の世帯像のままである。 単身世帯・共働き世帯・非正規雇用の世帯は、このモデルの外にいる。

「維持できる」と「30年以上かけて給付水準を1割以上下げ続ける」は、両立する。 そこが論点になる。

言わないこと

次の3つには立ち入らない。いずれも、このサイトの目的の外にある。

  • 年金制度が少子化を引き起こしたという因果。 主張の成否に関係しない。実証研究の領域になる
  • いくら補償すれば足りるのかという水準。 解決策の議論であり、これから決めていくことになる
  • 制度をどう作り替えるべきかという設計案。 同じ理由で、論証(第1部〜第3部)では書かない。末尾の補論に、置き方を1つだけ置く。 補論は論証から切り離してあり、冒頭でそう断ってある

第1部

なぜこうなったのか

制度史は2つの時期に分かれる。前半は、給付を改善しながら負担の引き上げを抑え、 その差を将来の再計算に委ねた時期。後半は、給付水準の抑制が本格化し、2004年に将来の料率引き上げへの依存を断った時期。 前半で積み上がった将来負担への依存が、後半の調整の背景にある。

ただし、後に給付削減が起きたことだけを根拠に、その削減を「過去の先送りの支払い」と 決めつけることはできない。人口・寿命・経済条件の変化という別の要因も同時に働いている。 ここでは両方があることを示すにとどめる。

積立方式の時代 1941-1947

自分が受け取る給付を自分の保険料で賄う設計。既存の高齢者への給付がないため、世代間の移転は発生しない。

  1. 1941-42

    労働者年金保険法 制定・施行。保険料率 6.4%(坑内夫 8.0%)、平準保険料方式

    完全積立方式。既存高齢者への給付がなく、世代間移転は発生しない設計

  2. 1944

    厚生年金保険法に改称。保険料率 11.0%(坑内夫 15.0%)

    積立方式を維持

将来の再計算に委ねた時期 1948-1980

戦後インフレで積立金の実質価値が失われた。保険料の引き上げを抑えながら給付を改善し、その差は5年ごとの再計算に委ねられた。

  1. 1948

    戦後インフレ。保険料率を暫定 3.0% に引き下げ(当時の給付水準で算定した男子の平準保険料率 9.4% の 1/3 未満)

    積立金の実質価値が目減りし、保険料負担能力も低下。完全積立方式が崩れるきっかけ

  2. 1954

    厚生年金保険法 全面改正。法第81条第4項が「将来にわたつて財政の均衡を保つことができるもの」かつ「少くとも五年ごとに再計算」と定める一方、実際の保険料率は 3.0% に据え置かれた。給付に定額部分を新設し、男子の支給開始年齢を 55歳から 60歳へ段階的に引き上げ

    修正積立方式・段階保険料制へ。条文が求める均衡水準と実際の料率の差は、将来の再計算に委ねられた

  3. 1959-61

    国民年金法 制定・全面施行。国民皆年金

    国民年金は発足時は完全積立方式

  4. 1965

    1万円年金(標準報酬月額 25,000円・加入20年のモデル)。保険料率も同時に引き上げ

    給付・負担をともに引き上げ

  5. 1966

    国民年金改正。給付を 200円×納付月数へ引き上げ。保険料は 1967年1月から月額 100・150円を 200・250円へ引き上げたが、平準保険料は月額 403円と3倍以上に上昇する見込みで、「段階的に引き上げられるべきもの」との記載に留まる

    国民年金も修正積立方式へ移行

  6. 1969

    2万円年金

    給付引き上げ

  7. 1973

    福祉元年。5万円年金(標準報酬月額 86,400円・加入27年のモデル。給付水準は男子平均賃金の60%を目途)、物価スライド制導入、標準報酬の賃金再評価導入。追加費用を国庫負担で賄うか後代の保険料で賄うかで意見が分かれ、後者が採られた

    インフレと経済成長に伴って積立不足がさらに発生。賦課方式の要素がより強く組み込まれた

  8. 1974-75 人口

    合計特殊出生率が人口置換水準を割り込む(1974年に置換水準を下回り、1975年に 1.91 と2.00を下回る)

    制度が依存する人口の前提が反転しはじめた

  9. 1980

    財政再計算に伴う改正。定額部分の単価を 1,650円から 2,050円へ引き上げ、保険料率を 10.6% へ引き上げ。支給開始年齢引き上げ規定は国会修正で削除

    給付・負担をともに引き上げつつ、支給開始年齢の調整は見送り

  10. 1981 人口

    昭和56年推計。将来の合計特殊出生率を 2.09 と仮定(人口置換水準まで回復する前提)

    年金財政の前提となる人口推計の出発点

給付水準の抑制が本格化した時期 1985-

給付水準の引き下げ、支給開始年齢の後ろ倒し、支え手の拡大が続く。将来の保険料率への依存が消えるのは2004年の上限固定から。

  1. 1985

    基礎年金導入。第3号被保険者制度 創設。給付単価 1,680円 → 1,250円、最終保険料見通し 19,500円 → 13,000円。当面の料率 12.4% に対し将来の最終料率 28.9% を見込む

    基礎年金は概念上、完全賦課方式として仕組まれた。給付水準の引き下げが始まる

  2. 1989 人口

    1.57ショック。完全自動物価スライド制導入

  3. 1994 / 2000

    定額部分・報酬比例部分の支給開始年齢を段階的に引き上げ開始。2000年は給付水準も引き下げ

    給付削減を、受給を遅らせる形でも実施

  4. 2003

    総報酬制導入。賞与を含めた報酬全体を対象にしたため、保険料収入を増やさずに料率の表示が 17.35% → 13.58% に変わった

    料率の時系列に断絶が生じた地点。ここを跨いで料率を比較してはならない

  5. 2004

    保険料水準固定方式(厚生年金 18.3%・国民年金 16,900円で固定)、マクロ経済スライド導入、有限均衡方式へ。国会審議では積立方式への転換と移行時の二重負担も議論されたが、採用されなかった

    概ね100年で財政均衡。期間終了時に給付費1年分だけ積立金を残す=残りは取り崩す前提

  6. 2016

    マクロ経済スライドにキャリーオーバー導入

    スライドが発動できない年が続いたことへの対処

  7. 2020 / 2025

    被用者保険の適用拡大、繰下げ受給の上限を 75歳へ(増額を伴う選択肢の拡大)、在職老齢年金の支給停止基準の緩和

    支え手を増やす方向の調整。繰下げの拡大と在職老齢年金の緩和は、給付の抑制ではなく選択肢の拡大・給付の増加

制度の出発点には、世代間の移転がなかった

発足時の平準保険料方式は、自分が受け取る給付を自分の保険料で賄う設計だった。 既存の高齢者への給付がないため、世代間の移転は発生しない。 戦後インフレで積立金の実質価値が失われ、 1948-1980 の局面に入ってから、構造が変わっていく。

厚生年金の財政方式は、1942年の完全積立方式(自分の給付を自分の保険料で賄う)から、1954年の修正積立方式(不足分は後の世代の保険料で賄う)、1973年と1985年の賦課方式の要素の強まり(その時の現役がその時の受給者を賄う)を経て、2004年の有限均衡方式(保険料の上限を固定し給付を自動調整、積立金は取り崩す)へ段階的に移った。
財政方式は「自分で自分を賄う」から「その時の現役が受給者を賄う」へ段階的に移った。「賦課方式へ移行した」と言い切れる一点はなく、積立の要素が薄まり、賦課の要素が強まってきた。

1954年の条文と、実際の料率

厚生年金保険法 第81条第4項は、こう定めていた。

保険料率は、保険給付に要する費用の予想額並びに予定運用収入及び国庫負担の額に照らし、 将来にわたつて財政の均衡を保つことができるものでなければならず、且つ、少くとも五年ごとに、 この基準に従つて再計算されるべきものとする。

条文が定めたのは「将来にわたる財政均衡を保てる料率であること」と「5年ごとの再計算」の2点で、 「不足分を後の世代の保険料で賄う」とは書いていない。 ただし事実として、1948年に引き下げられた 3.0% が、この改正でも据え置かれた。 当時の男子の平準保険料率は運用前提により 5.0% または 4.1% とされている。 条文が均衡を要求する一方、実際の料率はその水準を下回り、均衡の回復は将来の再計算に委ねられた。 世代間の移転は、ここから生じた結果であって、条文が定めたものではない。

この差は、1954年だけのものではない。平準保険料率が算定された年では、実際の料率はそれを下回っていた。 設計は当面の料率を抑え、将来の段階的な引き上げを見込むもので、最終料率の見通しは再計算のたびに改められた。 1980年以降の見通しは 26〜35% である。

厚生年金の保険料率(男子)は1948年に暫定的に3.0%へ引き下げられ、平準保険料率が算定された年ではそれを下回る率で運営された。再計算のたびに将来の最終保険料率の見通しが改定され、1980年以降は26〜35%と見込まれていた。2003年4月の総報酬制で料率の分母が月給から年収に変わり、2004年の改正で総報酬ベースの上限18.3%が決まった。
当面の料率を抑え、将来の段階的な引き上げを見込む設計だった。最終料率の見通しは再計算のたびに改められ、2004年の改正で年収ベースの上限 18.3% が決まった。2003年4月の総報酬制で分母が月給から年収へ変わったため、17.35% から 13.58% への段差は引き下げではなく、この前後で高さを比べることはできない。

各改正は何を選んだか

各改正が選んだ対応を、負担増・給付増・給付減・将来に委ねる、の4つに分けて並べる。 前半は給付を拡充しながら保険料を段階的に引き上げ、不足分を将来の再計算に委ねた。 給付の抑制は 1954年の支給開始年齢引き上げを除いて選ばれていない。1985年以降は給付水準の抑制が本格化する。

1948年から1980年までの改正は、給付を拡充しながら保険料を段階的に引き上げ、不足分を将来の再計算に委ねた。給付の抑制は1954年の支給開始年齢引き上げを除いて選ばれていない。1985年以降は給付水準の抑制が本格化し、将来の料率引き上げへの依存は2004年に上限を固定するまで残った。
給付の拡充と段階的な負担増から、1985年以降は給付水準の抑制が本格化した。将来の料率引き上げへの依存が消えるのは 2004年に上限を固定してからになる。2020年以降の繰下げの拡大や在職老齢年金の緩和は、給付の抑制ではなく選択肢の拡大・給付の増加として扱っている。

財政方式の作り替えは、議論されたが採られなかった

2004年5月25日の参議院厚生労働委員会で、積立方式への転換と移行時の二重負担が議論されている。 厚生労働大臣はこう答えた。

ここまで賦課方式を進めてまいりまして、今からまた積立方式に戻すということになりますと、 かなりな期間、年々歳々のこのいわゆる給付費以外にまた別途この財源が必要になるということもございますし、 非常に厳しい中ではございますけれども、この賦課方式というのを今後も続けていくという以外にないというふうに思っております。

年金局長は同じ日に、積立方式へ転換すると「二重の負担の問題が生じる」と説明した。 現に受給している世代の給付は賦課方式で賄い続ける必要があり、そのうえで自分の積立を始めることになるので、 「二重の財源として非常に巨大な財源が要る」という説明である。 誰も考えなかったのではなく、移行時の負担が論点になって採られなかった。 移行に費用がかかることは、移行が不可能であることの証明ではない。 答弁も「不可能」とは言っていない。ここで言えるのは「既存の給付約束が、財政方式の変更に大きな制約を与える」までである。 出典: 同 会議録 吉武民樹 厚生労働省年金局長 発言48

なお同じ日の答弁で、大臣は現行制度を「完全に賦課方式になっているわけではない」「どちらかといえば賦課方式の方に近い」と述べ、 年金局長は発足時について「積立方式の条件を一〇〇%満たした形で運営を行ってきたわけではないというのは歴史的な事実」と述べている。 第1部の図1で「賦課方式へ移行したと言い切れる一点はない」と書いたのは、この認識と同じ線にある。 出典: 同 会議録 坂口力 厚生労働大臣 発言190吉武民樹 年金局長 発言42

第2部

前提はどれだけ外れたか

制度が依存しているのは、次の世代が生まれてくることである。 その前提が実際にどう動いたかを、まず実績で見る。

合計特殊出生率は1947年の4.54から低下し、1974年に人口置換水準2.07を割り込んだ。2005年に1.26まで下がった後2015年に1.45へ戻したが、その後ふたたび低下し、2024年は1.15、2025年(概数)は1.14で過去最低となった。
合計特殊出生率は1974年に人口置換水準を割り、以後50年戻っていない。2005年から2015年にかけて1.26から1.45へ戻した時期があることも、そのまま描いている。

国はこの先どうなると想定してきたか。将来推計人口は5年ごとに公表され、 そのたびに「長期的にどの水準へ向かうか」の想定が置き直されてきた。

国の将来推計人口が置いた合計特殊出生率の長期到達値は、1981年の昭和56年推計で2.09だったものが、2023年の令和5年推計では1.36まで下がった。平成24年推計と平成29年推計の2回は前回より上方修正されている。
長期の到達値は、1981年の 2.09 から 2023年の 1.36 へ動いた。ただし毎回下方修正されたわけではなく、2012年と2017年の2回は上方修正されている。

この図が示すのは「長期にどの水準へ向かうと想定したか」の変更履歴であって、 各年の予測が当たったかどうかではない。両者は分けて見る必要がある。

では、同じ年の予測と実績はどうか。最新の令和5年推計は、 合計特殊出生率が2023年に 1.2251 で底を打ち、そこから回復して2070年に 1.3573 へ向かうと置いている。

令和5年推計の出生中位仮定は、合計特殊出生率が2023年に1.2251で底を打ち、その後1.33前後まで回復すると想定している。実績は2023年が1.20、2024年が1.15、2025年(概数)が1.14で、想定した底を下回って低下を続けている。
最新の推計も「これから回復する」という形をしている。実績は底を打たずに下がり続けており、2025年(概数)は 1.14 で過去最低となった。推計は同じ年に 1.2713 を置いている。

参議院の調査資料は、過去の推計が実績とずれた理由の一つをこう書いている。

出生率が一時的に低下しても上昇に転じると仮定していたことも一因と考えられる

同じ構造が、最新の推計にも入っている。

外れたのは出生率だけではない

1985年改正は、基礎年金と第3号被保険者の仕組みを作り、いまの制度の骨格を決めた改正である。 その財政再計算(昭和59年)が前提にした将来推計人口(昭和56年推計・1981年・中位)は、 2025年をどう見ていたか。出生率のほかに平均寿命と65歳以上人口の割合を 2024年の実績と並べ、 あわせて、財政検証がいまも使うモデル世帯の前提と、世帯構成の実態の変化を置く。

昭和59年財政再計算が用いた昭和56年推計(中位)は、2025年の合計特殊出生率を2.09、平均寿命を男75.07歳・女80.41歳、65歳以上人口の割合を21.3%と置いていた。2024年の実績は出生率1.15、平均寿命男81.09歳・女87.13歳、65歳以上の割合29.3%で、いずれも前提から外れている。あわせて、財政検証のモデル世帯は妻が専業主婦だが、専業主婦世帯が専業主婦世帯と共働き世帯に占める割合は1985年の56.9%から2024年の28.1%へ下がった。これは見通しとの比較ではなく実態の推移である。
1985年改正の財政再計算が置いた人口の前提は、出生率・平均寿命・65歳以上の割合の3つとも実績から外れた。平均寿命は前提より長く、65歳以上の割合は前提より高い。下段の世帯構成は見通しとの比較ではなく、モデル世帯(妻が専業主婦)の姿が実態のなかで少数派になったことを示す。

出生率は 2.09 へ戻ると置かれ、実績は 1.15 である。 平均寿命は男 75.07歳・女 80.41歳が 2025年の仮定だったが、 女はこの改正の年(1985年)にすでに 80.48歳で、 2024年は男 81.09歳・女 87.13歳になった。 65歳以上の割合は 21.3% の見通しに対し 29.3% である。

モデル世帯は妻が専業主婦だが、これは見通しではなく、給付水準を示すための計算上の世帯である。 実態は、1985年に専業主婦世帯 952万・共働き世帯 722万だったものが 1992年に逆転し、2024年は 508万・1,300万になっている (専業主婦世帯の割合は 56.9% → 28.1%。全世帯に占める割合ではない)。

この推計を財政再計算が用いたことは、1984-08-01 の衆議院社会労働委員会で厚生省年金局長が 「人口問題研究所の、しかもその中の中位推計をもとにして財政再計算をさせていただいている」と答弁している。 同じ答弁では、新推計の 2020年の老年人口比率を 21.8%(2043年に 22.2%)と説明していた。実績は 2020年に 28.6% である。 この図で言えるのは、前提と実績の差までである。2004年改正が前提にした平成14年推計は、2025年の65歳以上の割合を 28.7%(3,473万人 ÷ 1億2,114万人)と見ていて、 実績 29.3% との差は小さい。前提のずれは、項目によっても時点によっても一様ではない。 出典: 国会会議録 第101回国会 衆議院社会労働委員会 第30号(1984-08-01)吉原健二 厚生省年金局長 発言289発言291参議院 調査室 図表7

第3号被保険者の資格と、1985年の説明

モデル世帯の妻に当たる第3号被保険者は、この1985年改正(国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)。1986年4月施行)で作られた。 資格の条件は3つで、本人が20歳以上60歳未満で第2号被保険者の配偶者であること、国内に住所があること、 第2号被保険者の収入により生計を維持していること(年間収入 130万円未満)である。 保険料は本人が負担せず、第2号被保険者全体が厚生年金保険料として負担する。その期間は保険料納付済期間として基礎年金に反映される。 子を育てているかどうかは、条件に入っていない。

当時の政府が挙げた理由も、子育てではない。厚生白書 昭和60年版は、被用者の妻が任意加入のままだと 「離婚したり障害になった時に無年金になるおそれ」があり、「妻が任意加入している世帯と任意加入していない世帯とで世帯としての給付水準に大きな違いが生ずる」と書いている。 国会では厚生省年金局長が、婦人一人一人に年金の受給権を与えるのが「制度のあり方としても望ましい」と述べ、 保険料については「サラリーマンの妻の場合には夫がかわって保険料を納めている」と説明した。 昭和60年版・61年版の厚生白書と、第101回・第102回国会の社会労働委員会の答弁を当たったが、家事や育児を理由に挙げた記述は見つからなかった。 出典: 厚生省『厚生白書 昭和60年版』第1編 第3章 第2節『厚生白書 昭和61年版』第1編 第5章 第1節国会会議録 第101回国会 衆議院社会労働委員会 第29号(1984-07-26)吉原健二 厚生省年金局長 発言267第102回国会 参議院社会労働委員会 第15号(1985-04-16)同 発言124発言156

「共同して負担した」という言い方が条文になるのは、19年後である。2004年改正で新設された厚生年金保険法第78条の13は、 被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について「当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識」と定める。 これは離婚時の3号分割の総則として置かれた条文で、1985年の意図を直接示すものではない。 出典: 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第78条の13(e-Gov 法令検索)社会保障審議会年金部会「議論の整理」(2024-12)Ⅱ-2-②(2004年改正で規定が設けられた経緯)

人数はこう動いた。第3号被保険者は 1995年度末の 1,220万人をピークに、 2024年度末には 641万人(男 13万・女 628万)、 2025年12月末には 610万人になった。ピークから 47% 減っている。 2024年12月の社会保障審議会年金部会「議論の整理」は、第3号の「過半を占める非就業の中には、出産・育児や介護・看護のため、あるいは、健康上の理由のためすぐには仕事に就けない者など、様々な属性の者が混在している」と書き、 適用拡大による縮小を基本的な方向としたうえで、制度の在り方については「意見がまとまらなかった」としている。 2025年の改正法(令和7年法律第74号)は第3号を見直していない。2026年9月4日、厚生労働省は「国民年金第3号被保険者制度等に関する検討会」の第1回を開いた。 出典: 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」同「第3号被保険者制度を巡る現状について」(検討会 資料2・2026-09-04)社会保障審議会年金部会「議論の整理」(2024-12)厚生労働省年金局「令和7年法律第74号の概要等」(2025-06-30)国民年金第3号被保険者制度等に関する検討会(第1回)

ここで言えるのは、資格の条件と、当時の説明と、人数までである。専業主婦世帯が減ったことは、創設の趣旨が失効したことを意味しない。 第3号の資格を子育てに紐づけるかどうかは、末尾の補論で扱う。

なぜこれが年金の話になるか

年金の財政検証は、この将来推計人口を前提に組まれている。推計が動けば、財政検証の見通しも動く。

ここで踏み外さないこと。人口の仮定は、その数値でなければ制度が成立しないという必要条件ではない。 年金財政には就業者数・賃金・運用収入も効く。2024年財政検証でも、出生率の仮定が下がる一方で、 被保険者数や積立金は前回の見通しを上回っている。 「出生率の仮定が外れた、だから制度が維持できない」と直結させることはできない。

言えるのはここまでになる。制度は、人口の前提が変わるたびに設計をやり直してきた。 そのやり直しは、給付水準を下げ、受給開始を遅らせ、支え手を広げる方向に一貫している。 そして人口の前提は、やり直したそばから再び下振れしている。

第3部では、この制度がなぜ次の世代に依存しているのか、その構造をそのまま記述する。

第3部

構造の中心にあるもの

ここでは構造をそのまま記述する。3つの事実を並べ、判定はしない。

1. 賦課方式は、次の世代が存在することを前提に給付を約束している

厚生労働省は、公的年金の財政方式をこう説明している。

年金給付に必要な費用を、その都度、被保険者(加入者)からの保険料で賄っていく
保険料(率)は受給者と被保険者(加入者)の人数比に依存
少子高齢化の進行等により、将来に向けて受給者数や被保険者(加入者)数が変化していけば、その影響を大きく受けることとなる

いま保険料を納めている人が将来受け取る給付は、その時の現役が納める保険料で賄われる。 財源には国庫負担と積立金の取り崩しもあるが、中心は保険料である。 給付の約束は、次の世代が存在すること、つまりその数と賃金を前提にしている。 第1部で見たとおり、この形は制度の出発点にはなく、1954年以降に強まった。

2. 次の世代を育てる費用は、育てた個人が負う

子ども1人にかかる費用を、公表されている調査で置く。 国立成育医療研究センターが2024年11月に行った調査(第1子が0歳〜高校3年生の母親 6,408人)では、 第1子1人の年間費用は 2歳の 897,528円 から高校1年生の 2,310,650円 まで。 0歳から高校3年生までの19区分を合計すると 25,701,956円、 預貯金・保険(3,974,802円)を除くと 21,727,154円 になる。

この額は家計が支出した額であり、幼児教育・保育の無償化や高校の就学支援金で賄われた分は含まれない。出産にかかる費用も含まない。 内閣府が2009年度に行った同種の調査(0歳〜中学3年生)は 18,995,250円 で、 成育医療研究センターは2024年の同じ範囲を 19,530,626円 と報告している。 出典: 国立成育医療研究センター プレスリリース「0歳~高校3年生の子育てにかかる年間費用の調査結果を公開」(2025-10-16)三澤奈菜・竹原健二「日本における0-18歳の子育てに要する費用の調査: ウェブアンケート調査2024」日本公衆衛生雑誌 73巻2号(J-STAGE)内閣府「インターネットによる子育て費用に関する調査 報告書【概要版】」(2010-03。国立国会図書館 WARP 保存版)

このほかに、親が就業を中断・短縮することによる逸失所得がある。これは家計によって大きく違うので、ここでは推定しない。 この費用を負担しているのは、子を育てる家計である。公的支援がそれに対してどのくらいの大きさかを、次で数える。

3. 制度は、育てたかどうかを給付にほぼ反映しない。ただし部分的な措置はある

老齢年金の基本的な算定は、保険料の納付記録と報酬・加入期間による。 老齢基礎年金は満額に保険料納付月数の割合(480か月分の何か月か)を掛けた額で、 老齢厚生年金は加入中の報酬額と加入期間に応じて計算される。 養育期間の記録を保護する特例や、一定の年齢の子を扶養する場合の加算はあるが、 子を育て終えた実績の人数に応じて一律に老齢年金を加算する制度ではない。 そのうえで、子育てに関わる公的な措置は次の8つがある(2026年度の制度。2026年10月施行のものを含む)。

措置(対象・期間)内容と、補償していないもの
養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置厚生年金3歳未満の子を養育する厚生年金の被保険者(または被保険者であった人)。養育開始月から、子の3歳の誕生月の前月まで給付ではない。養育中に報酬が下がっても、年金額の計算は従前(養育開始月の前月)の標準報酬月額で行う。本人の申出が必要。遡れるのは申出の前月までの2年間 補償していないもの: 養育費・教育費そのもの。3歳以降の期間。保険料は下がった報酬で計算する(免除ではない)出典: 日本年金機構の制度説明「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
産前産後休業・育児休業等の期間の保険料免除、国民年金の産前産後・育児期間の免除厚生年金・健康保険(被用者)/国民年金第1号被用者は産休(産前42日〜産後56日)と3歳未満の子の育休。国民年金第1号は出産予定月の前月から4か月(2019年4月〜)と、1歳未満の子を養育する期間(2026年10月1日〜。父母とも対象、所得要件・休業要件なし)。休業の期間(被用者)/産前産後の4か月と、子が1歳になる前月までの育児期間(実父・養父母は最大12か月、実母は産前産後の免除に続く9か月)(第1号)本人と事業主の保険料を免除(被用者)/保険料を免除(第1号)。免除期間はいずれも保険料を納めた期間として年金額に反映する。事業主経由の申出(被用者)/市区町村への届出(第1号) 補償していないもの: 休業中の賃金(それは育児休業給付)。第1号の育児期間免除は1歳未満まで(被用者の育休免除は3歳未満まで)出典: 日本年金機構の制度説明「産前産後休業・育児休業等の期間の保険料免除、国民年金の産前産後・育児期間の免除」
育児休業給付雇用保険雇用保険の被保険者で育児休業を取った人。子が1歳になる前日まで(要件を満たせば最長2歳)休業開始時賃金日額 × 67%(181日目以降は 50%)。2025年4月から、両親とも14日以上取ると28日を上限に 13% を上乗せ(合わせて 80%・手取り10割相当)。2歳未満の子の時短勤務には賃金の 10% の給付。雇用保険の被保険者であること。雇用保険に加入していない自営業者等は対象外 補償していないもの: 養育費・教育費そのもの。休業しない親の逸失所得。雇用保険に加入していない人の休業中の所得出典: 厚生労働省の制度説明「育児休業給付」
児童手当児童手当法(こども家庭庁)0歳から18歳に達した後の最初の3月31日までの子を養育する人。0歳〜高校生年代月額 3歳未満 15,000円/3歳以上 10,000円/第3子以降 30,000円(2024年10月分〜)。第3子以降の数え方は、22歳到達後の最初の3月31日までの兄姉で親が生計費を負担している子を含めて数える。所得制限なし(2024年9月分までは 960万円未満)。申請が必要 補償していないもの: 使途の限定はない。第3子以降の加算は、上の子が22歳年度末を過ぎるなど数え方の条件を外れると終わる出典: こども家庭庁の制度説明「児童手当」
扶養控除所得税・住民税16歳以上の扶養親族。16歳以上(16歳未満は対象外)所得控除 一般 38万円(住民税 33万円)、19〜22歳の特定扶養親族 63万円(住民税 45万円)。年末調整または確定申告。2025年分から扶養親族の所得要件は 58万円以下、19〜22歳には特定親族特別控除(最高 63万円) 補償していないもの: 16歳未満の子。年金制度上の評価ではなく税負担の軽減出典: 国税庁の制度説明「扶養控除」
幼児教育・保育の無償化子ども・子育て支援法(こども家庭庁)3〜5歳の全員。0〜2歳は住民税非課税世帯。3歳から小学校入学まで(0〜2歳は非課税世帯のみ)認可保育所・認定こども園等は利用料が無償。幼稚園は月 25,700円まで、認可外保育施設は月 37,000円(0〜2歳の非課税世帯は 42,000円)まで(いずれも上限。利用料がそれ未満なら実額まで)。3〜5歳は所得にかかわらず対象。認可外は保育の必要性の認定が必要 補償していないもの: 通園送迎費・食材料費・行事費は保護者の負担。0〜2歳の課税世帯出典: こども家庭庁の制度説明「幼児教育・保育の無償化」
高等学校等就学支援金高等学校等就学支援金の支給に関する法律(文部科学省)高等学校等に通う生徒。在学期間年額 公立 118,800円、私立 457,200円(2026年度。2025年度までは 396,000円)を上限に授業料に充てる。2026年4月から所得制限を撤廃(2025年度までは年収約910万円未満)。申請が必要 補償していないもの: 入学金・施設費・教材費など授業料以外の教育費。生活費出典: 文部科学省の制度説明「高等学校等就学支援金」
加給年金・遺族基礎年金の子の加算厚生年金・国民年金厚生年金に20年以上加入した受給権者に生計を維持されている子(加給年金)/生計維持者が死亡した場合の子(遺族基礎年金)。18歳到達年度末まで(障害等級1・2級は20歳未満)年額 1人目・2人目 各 243,800円、3人目以降 各 81,300円(2026年度)。受給権者が老齢厚生年金を受け始めた時点で子がいる、または生計維持者が死亡した、という特定の状況に限る 補償していないもの: 一般的な養育費。子が18歳年度末を過ぎた後出典: 日本年金機構の制度説明「加給年金・遺族基礎年金の子の加算」

8つのうち年金制度の中にあるのは、みなし措置・保険料免除・子の加算の3つで、 いずれも養育期間の納付記録を保護するか、特定の状況で加算するものである。

4. 負担の算定で、扶養する子の数をどう扱っているか

ここまでは給付と支援を見た。負担の側では、保険料と税がどう決まるかを制度ごとに置く(2026年度の制度)。 一括して「反映しない」とは書けない。16歳以上の子は所得税の扶養控除の人数に入り、国民健康保険では人数が保険料を増やす方向に働く。

制度(算定基準)扶養する子の数の扱い
厚生年金・健康保険(被用者保険)標準報酬月額・標準賞与額 × 保険料率。労使折半保険料に影響しない。被扶養者(配偶者・子など)は保険料を負担せずに健康保険の給付を受ける。年金で被扶養者に加入期間が付くのは配偶者(第3号被保険者)だけで、子は対象外 人数は式に入らない。保険料の基礎になる報酬には家族手当が含まれる出典: 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」健康保険法 第156条・第161条(e-Gov)厚生労働省「「年収の壁」への対応」
所得税課税所得 × 税率。扶養控除は16歳以上の扶養親族が対象16歳以上の扶養親族は人数に応じて控除される(一般 38万円、19歳以上23歳未満 63万円)。16歳未満の扶養親族に対する扶養控除(38万円)は、2011年分から廃止。財務省の説明は「所得控除から手当へ」「子ども手当の創設とあいまって」 16歳以上は人数に応じて控除。16歳未満は入らない。2026年時点でも16歳未満は控除対象扶養親族に当たらない出典: 財務省「扶養控除の見直しについて(22年度改正)」財務省「所得税法等の一部を改正する法律案要綱」(第174回国会)国税庁 タックスアンサー No.1180「扶養控除」
個人住民税所得割は課税所得 × 10%、均等割は定額16歳未満の扶養控除(33万円)は2012年度分から廃止。ただし非課税限度額の判定では、同一生計配偶者と扶養親族の人数が「世帯人員数」として数えられる(基準: 35万円 × 世帯人員数 + 10万円 + 加算額) 制度の一部で人数を数える。実際の限度額は級地区分に応じて市町村の条例で決まる出典: 総務省「地方税法等の一部を改正する法律の概要」(平成22年度)総務省「個人住民税の諸課題」資料1(2022-10-25)p.33
国民健康保険所得割 + 被保険者均等割(1人ごと)+ 世帯別平等割(+資産割)被保険者1人ごとに均等割がかかるので、子が多いほど保険料(税)は増える。未就学児は均等割の5割を公費で軽減(2022年4月〜) 人数が多いほど増える。国民健康保険は「反映しない」ではなく、人数で増える方向出典: 厚生労働省「国民健康保険の保険料・保険税について」地方税法 第703条の4・第703条の5(e-Gov)厚生労働省「未就学児の均等割保険料(税)の軽減措置に係る考え方」
子ども・子育て支援金(2026年4月〜)医療保険料に上乗せして徴収。被用者保険は標準報酬 × 支援金率 0.23%(労使折半)被用者保険では標準報酬に比例し、子の数は式に入らない。国民健康保険では、18歳到達年度末までの子の均等割は全額軽減される(子がいる世帯の拠出額が増えないようにするため) 制度の一部で人数を数える。総額は2026年度 概ね6,000億円、2028年度 概ね1兆円。加入者1人当たり平均月額は 250円 → 450円(本人拠出分)出典: こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」こども家庭庁「子ども・子育て支援金の概要について」(2025-12-26)p.2・p.8全国健康保険協会「令和8年度の協会けんぽの保険料率」

被用者保険の保険料は標準報酬だけで決まり、被扶養者の人数は式に入らない。所得税は16歳未満の扶養控除を2011年分から廃止し、 その分は手当(当時の子ども手当、現在の児童手当)に置き換えた。国民健康保険は1人ごとの均等割があるので人数で増える。 2026年4月からの子ども・子育て支援金は、被用者保険では標準報酬に比例し、国民健康保険では18歳までの子の均等割を全額軽減する。 制度ごとに扱いが違う、というのがここで言えることである。

公的支援の額は、家計の支出と比べてどのくらいか(参考)

費用への直接の支援のうち、雇用形態や所得によらず受け取れる3つ (児童手当・幼児教育・保育の無償化・高等学校等就学支援金)を、第1子または第2子1人について、 全期間、各制度の上限まで対象になる場合で合計する(2026年度の制度)。

  • 児童手当: 15,000円 × 36か月 + 10,000円 × 180か月 = 2,340,000円
  • 幼児教育・保育の無償化: 幼稚園の上限 25,700円 × 36か月 = 925,200円。 利用料が上限未満なら実額まで。認可保育所は利用料そのものが無償になる
  • 高等学校等就学支援金: 公立 118,800円 × 3年 = 356,400円、 私立 457,200円 × 3年 = 1,371,600円(授業料を上限とする)

合計は公立 3,621,600円、私立 4,636,800円。 これを、上の家計の支出(預貯金・保険を除く 21,727,154円)と並べる。

公立: 3,621,600円 ÷ 21,727,154円 = 16.7%
私立: 4,636,800円 ÷ 21,727,154円 = 21.3%

この比率は「公的支援が費用の何%を負担しているか」ではない。支出は調査の平均値で、支援は上限まで対象になる場合の合計であり、同じ世帯の値ではない。 支出には無償化と就学支援金で賄われた分が含まれないが、その額は世帯ごとに違うので、ここでは足し戻していない。 第3子以降の児童手当(月 30,000円)は、22歳年度末までの兄姉の生計費を親が負担している間だけ加算されるので、ここでは計算していない。 扶養控除は税額の軽減で、所得によって額が変わるので含めていない。 ここで言えるのは、直接の支援の額と、家計が実際に支出している額の大きさの関係までである。

所得と保険料への支援(育児休業給付・保険料免除)は別枠になる。育児休業給付は雇用保険の被保険者だけが対象で、額は休業前の賃金で決まる。 1年間休業した場合の給付は、休業前の賃金の約7か月分(67% × 6か月 + 50% × 6か月)になる。 雇用保険に加入していない自営業者等は対象外になる。国民年金第1号被保険者の保険料の免除は、産前産後の4か月に加えて、 2026年10月から子が1歳になるまでの期間が対象になる(実父・養父母は最大12か月、実母は産前産後の免除に続く9か月)。

所定の就業経歴を仮定した保険料総額(参考)

賦課方式の給付は次の世代の保険料で賄われる。その大きさを、費用や支援と同じ単位(円)で見るために、 1人が現役期間に納める保険料の総額を1つの仮定で置く。生涯賃金は労働政策研究・研修機構『ユースフル労働統計2025』の 「学校卒業後、60歳までフルタイムの正社員を続けた場合」(転職あり・退職金を含めない・2024年)、 保険料率は2026年度の値を使う。 出典: 労働政策研究・研修機構『ユースフル労働統計2025』第21章 表21-1日本年金機構「厚生年金保険の保険料」全国健康保険協会「令和8年度保険料率のお知らせ」「令和8年度の協会けんぽの保険料率」

  • 高校卒・女性: 生涯賃金 1億5,790万円 × 厚生年金 18.3% = 2,890万円(本人負担 1,445万円)。 健康保険 9.9% と子ども・子育て支援金 0.23% を加えた 28.43% では 4,489万円(本人負担 2,245万円)
  • 大学卒・女性: 生涯賃金 2億990万円 × 厚生年金 18.3% = 3,841万円(本人負担 1,921万円)。 健康保険 9.9% と子ども・子育て支援金 0.23% を加えた 28.43% では 5,967万円(本人負担 2,984万円)
  • 高校卒・男性: 生涯賃金 2億1,560万円 × 厚生年金 18.3% = 3,945万円(本人負担 1,973万円)。 健康保険 9.9% と子ども・子育て支援金 0.23% を加えた 28.43% では 6,130万円(本人負担 3,065万円)
  • 大学卒・男性: 生涯賃金 2億6,280万円 × 厚生年金 18.3% = 4,809万円(本人負担 2,405万円)。 健康保険 9.9% と子ども・子育て支援金 0.23% を加えた 28.43% では 7,471万円(本人負担 3,736万円)
厚生年金のみ(労使合計): 2,890万円 〜 4,809万円
健康保険等を含む(労使合計): 4,489万円 〜 7,471万円

これは推定であって実測ではない。生涯賃金は2024年の各年齢の平均賃金を合計したもので、将来の賃金の予測ではない。 保険料率は現行の値で固定し、名目のまま割り引いていない。標準報酬月額(厚生年金は65万円)と標準賞与額には上限があるので、 単純計算は実額より大きく出る方向にずれる。介護保険(40〜64歳のみ)と雇用保険は含めていない。 この幅は、卒業後60歳まで離職せずに正社員を続けるという想定の中での学歴・性別の幅であって、生まれた子1人の将来の拠出額の下限と上限ではない。 子本人が受ける給付や、公的な養育・教育の費用を差し引いていないので、養育の純便益でもなければ、仕事との貢献の比較でもない。 この数字から、貢献の順位や補償すべき額は導けない。上の家計の支出や直接の支援と同じ世帯の値でもないので、割合は出さない。 厚生労働省は2024年財政検証結果レポートで、払った保険料に対して受け取れる給付を機械的に計算しても 「これだけで年金制度の価値を判断できるものではない」と留保している。 出典: 厚生労働省年金局数理課『令和6(2024)年財政検証結果レポート』第2章 第3節 5(p.117)

ここまでが構造の記述である

賦課方式の給付は、次の世代が納める保険料で賄われる。次の世代を育てる費用を負担しているのは家計で、 その支出の額と、雇用形態や所得によらない直接の支援の額、年金制度の中にある特例を、ここまでに示した。 負担の算定で子の数がどう扱われるかは制度ごとに違い、被用者保険の保険料には入らない。 1人が納める保険料の総額は、1つの仮定の下で参考として置いた。

これをどう評価するか、いくら補うべきかは、このサイトでは判定しない。数字と構造を並べるところまでが、このサイトの範囲である。

補論

問いと、一つの置き方

ここから先は問題定義ではない。第1部から第3部までの事実から、この先に書く資格の条件や給付の水準が導かれるわけではない。 答えられていない問いを並べ、他国が何をしたかを事実として置き、そのうえで置き方を1つ、著者の仮定として置いてみたものである。 未完成の思考実験として読んでほしい。

答えられていない問い

  • 第3号被保険者の資格を、婚姻・扶養に紐づけ続けるのか。養育に紐づけるのか。 現在の条件は配偶者であることと生計維持で、子は入っていない(第2部)
  • 次の世代を育てることを、制度は「拠出」として書くのか。 年金額は納付記録と報酬で決まり、育て終えた子の数で一律に加算する仕組みはない(第3部)
  • 書くなら、その費用は誰が持つのか。 第3号の基礎年金の費用は、いま第2号被保険者全体が負担している
  • 子のない者をどう扱うのか。 不妊の検査や治療を受けた夫婦は 22.8%、心配したことがある夫婦は 42.1% である(第17回出生動向基本調査・2025年)

他国はこう答えた

事実だけを置く。日本の制度が足りないという判定ではない。

国・制度何を紐づけたか
ドイツ介護保険(連邦憲法裁判所 2001年4月3日判決・1 BvR 1629/94)子を育てる加入者は、金銭の保険料に加えて、賦課方式の社会保険制度が機能し続けるための「生成的な拠出(generativer Beitrag)」をしている。子のない加入者と同じ介護保険料を課すことは、基本法3条1項(平等原則)と6条1項(婚姻・家族の保護)の結合に反する 立法者に2004年末までの是正を求めた。判決文の表現では、賦課方式の制度にとって保険料だけでなく子の養育もまた構成要素(konstitutiv)である出典: Bundesverfassungsgericht, Urteil vom 3. April 2001 – 1 BvR 1629/94
ドイツ介護保険の保険料率2005年から、子のない加入者は通常の保険料率に上乗せを払う(2023年7月以降 0.6ポイント)。2023年7月からは25歳未満の子2人目〜5人目について1人につき0.25ポイント引き下げる 2025年1月以降の率(労使合計): 子なし 4.20%、子1人 3.60%、2人 3.35%、3人 3.10%、4人 2.85%、5人以上 2.60%。1940年より前に生まれた者、23歳未満、市民手当の受給者は上乗せの対象外出典: Bundesministerium für Gesundheit「Beitragsdifferenzierung nach Kinderzahl」「Kinderlosenzuschlag」
ドイツ連邦憲法裁判所 2022年4月7日決定(1 BvL 3/18 ほか)介護保険では、子の人数によらず同じ保険料を親に課すことは「本質的に異なるものの、憲法上正当化されない同等扱い」として違憲。一方、年金保険と健康保険では、親と子のない加入者の同じ保険料負担は親の不利益にならない 年金では養育期間の年金法上の承認(Kindererziehungszeiten)、健康保険では保険料のない家族保険によって、十分な不利益の調整がされているため(決定の Leitsatz)。負担側だけでなく給付側も合わせて評価している出典: Bundesverfassungsgericht, Beschluss vom 7. April 2022 – 1 BvL 3/18, 1 BvR 2824/17, 1 BvR 2257/16, 1 BvR 717/16
ドイツ年金の養育期間(Kindererziehungszeiten)1992年以降に生まれた子1人につき最大3年(36か月)を、全被保険者の平均所得で保険料を払ったのとおおむね同じ扱いで年金額に反映する。強制加入の納付期間として扱う 1992年より前に生まれた子は現行 2.5年。2027年1月から36か月へ延長(支給は2028年から)。共同で養育している場合は原則として母に帰属し、父に付けるには両親の一致した申告が必要出典: Deutsche Rentenversicherung「Kindererziehung: Ihr Plus für die Rente」
フランス年金(被用者一般制度)子3人以上を持った受給者の年金額を自動的に10%加算する。子1人につき最大8四半期(出産または養子縁組で4、養育で4)の加入期間を加算する 16歳になるまでに9年間扶養して育てた子も算入できる。公務員制度・自営業者制度では要件が異なる出典: L'Assurance retraite(Cnav)「Être parent」
フランス所得税の家族除数(quotient familial)世帯の課税所得を「持ち分」の数で割ってから累進税率を適用する。既婚は2、子1人目・2人目は各0.5、3人目以降は1人につき1 追加の0.5持ち分1つあたりの減税効果には上限がある。日本で「N分N乗」と呼ばれる方式だが、除数は世帯人数そのものではない出典: Service-Public.fr「Quotient familial d'un couple marié ou pacsé」、impots.gouv.fr「Votre situation de famille」
スウェーデン年金の養育年数の年金権(pensionsrätt för barnår)子を養育している最初の4年間、所得の低い方の親の公的年金の権利に上乗せする。両親の申請で帰属先を変えられる 年金に反映されるには、生涯で所得申告のある年が合計5年以上必要出典: Pensionsmyndigheten「Hur påverkar småbarnstiden din pension?」
韓国国民年金の無所得配偶者加入者の配偶者で別途の所得がない者(無所得配偶者)は地域加入者から除外される。保険料を負担しないが、加入期間にも算入されない。加入したい場合は任意加入者として自ら保険料を全額負担する 日本の第3号被保険者(保険料を負担せずに加入期間を得る)とは逆の形出典: 국민연금공단(国民年金公団)「지역가입자」「임의가입자」
韓国国民年金の出産クレジット2008年以降に生まれた(養子縁組した)子の数に応じて加入期間を加算する。2025年までは第2子から(2人 12か月、3人 30か月、4人 48か月、上限 50か月) 2026年1月1日以降に生まれた子からは第1子から加算(1人 12か月、2人 24か月、3人 42か月、以降1人ごとに18か月)し、累計の上限を廃止出典: National Pension Service「Childbirth credit」

ドイツの2つの判断は分けて読む必要がある。2001年の判決は介護保険について、子を育てることを賦課方式への「生成的な拠出」と呼んだ。 2022年の決定は、介護保険では子の人数による保険料の差を求める一方、年金と健康保険では養育期間と家族保険で調整されているとして、同じ保険料を認めた。 負担側だけでなく給付側も合わせて見ている。「賦課方式だから子の数で保険料を変えるべきだ」という一般論をドイツの裁判所が支持した、とは言えない。 韓国は、日本の第3号に当たる仕組みを持たない一方で、子の数に応じて加入期間を加算している。 出典: Bundesverfassungsgericht, Urteil vom 3. April 2001 – 1 BvR 1629/94(Leitsatz・Rn. 55・61)Beschluss vom 7. April 2022 – 1 BvL 3/18 u.a.(Leitsätze)National Pension Service「Childbirth credit」

日本でも税の側では「N分N乗」が国会で問われている。2023年3月8日の参議院本会議で、鈴木俊一 財務大臣は 「いわゆるN分N乗方式については、低中所得層には累進緩和の効果が全く及ばない一方、高額所得者、とりわけ片働き世帯に税制上大きな利益が生ずることになるため、我が国への導入については極めて慎重な検討が必要と考えております。」と答弁した。導入に慎重、という文脈である。 賦課方式と子育ての関係を外部性として定式化した研究には、Sinn, H.-W. (2004) “The pay-as-you-go pension system as fertility insurance and an enforcement device”, Journal of Public Economics 88、Cigno, A. and Werding, M. (2007) Children and Pensions, MIT Press がある。 出典: 国会会議録 第211回国会 参議院 本会議 第7号(2023年3月8日) 鈴木俊一 財務大臣 発言18(質問は 大塚耕平 議員(国民民主党・新緑風会) 発言17)

一つの置き方(著者の仮定)

第3号被保険者の資格を、子の有無と数で決める。次の世代を育てることに貢献した第3号被保険者(実態はほぼ女性で、2024年度末の男性は 13万人)には、その貢献に応じて手当をする。 貢献のない者には、第3号としての手当をしない。「手当をしない」とは、年金を与えないことではなく、保険料の負担なしに基礎年金が付く第3号の資格を与えないことである。 第1号として自ら納めるか、第2号として働く。制度の条件は配偶者の性別を問わない。

子の数第3号の扱いと、置き方の根拠
0人第3号の対象外。第1号として自ら納めるか、第2号として働く 根拠: 次の世代を制度に送っていない。不妊を含めて、理由は問わない
1人子が10歳になるまで 根拠: 18歳の半分は9歳。切りのよい10歳に置く。制度上の呼応として、子の看護等休暇の対象が小学校3年生修了まで(2025年4月〜)
2人下の子が18歳になるまで 根拠: 成年(民法第4条。2022年4月〜)。児童手当と遺族基礎年金の子の加算も18歳到達年度末が上限
3人以上期間の上限なし(第3号の対象年齢である60歳未満まで)。養育期間を厚生年金の平均標準報酬で加入したものとみなす 根拠: 人口置換水準(2024年 2.07)を上回る
障害のある子数に関係なく別枠(例: 2人以上と同じ扱い) 根拠: 養育の負担が期間・程度とも異なる

数字の置き方はこうである。18歳は成年で、児童手当と遺族基礎年金の子の加算も18歳到達年度末を上限にしている。 3人は、人口置換水準(2024年 2.07。その年の死亡率から逆算される値で、固定の定数ではない)を上回る数である。 1人は18歳の半分の9歳を、切りよく10歳に置いた。制度の中では、子の看護等休暇の対象が2025年4月から小学校3年生修了までになっている。 第17回出生動向基本調査(2025年)では、結婚持続期間15〜19年の夫婦のうち、子が0人 9.6%、1人 20.4%、 2人 48.7%、3人以上 21.2% である。 2024年12月の年金部会「議論の整理」には、「育児支援の観点から、第3号被保険者を第1号被保険者とした上で末子の年齢を基準にして保険料を免除するなどの配慮が考えられるという意見があった。」とある。意見であって、決定ではない。 出典: 法務省「民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について」厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」国立社会保障・人口問題研究所『人口統計資料集 2026年版』表4-3同『第17回出生動向基本調査 結果の概要』図表6-2(2026-09-11・速報)社会保障審議会年金部会「議論の整理」(2024-12)

この置き方が答えていないこと

  1. 費用。 この案は2つの流れを作る。3人以上の第3号への報酬比例の年金権という追加の給付と、対象外になる人が第1号として納める追加の保険料である。 前者は対象人数 × 付与する月数 × みなし報酬から年金額を計算しないと規模が決まらない。第3号被保険者を子の数別に数えた公表統計はなく、ここでは計算していない。 費用を書かずに約束だけを置けば、第1部で見た「将来に委ねる」形をこの案でも繰り返すことになる
  2. 第1号・第2号の親との扱い。 同じ3人を育てても、第3号なら厚生年金相当が付き、第2号は自ら保険料を払って同じ加算がない。自営業者やひとり親も外れる。 第3号に限る限り、婚姻・扶養への紐づけは残り、そこに子の条件を足す案になる。第2号へ移ると養育分の権利を失うなら、就業調整を強める。 この置き方を突き詰めれば、養育の評価は号を問わず親に付ける形(ドイツの養育期間や韓国の出産クレジットと同じ形)になる。 第3号に限る置き方はその途中の形で、ここは閉じていない
  3. 子のない夫婦。 不妊を含めて理由を問わない置き方である。ドイツの介護保険も理由を問わない。それでよいかは、この案が答えていない
  4. 適用拡大との関係。 2025年改正で短時間労働者の賃金要件と企業規模要件が撤廃されていき、第3号のパート層は第2号へ移る。この案の対象は、その後に残る第3号である 出典: 厚生労働省年金局「令和7年法律第74号の概要等」(2025-06-30)Ⅰ-1
  5. 行動の予測は仮説である。 「フルタイム化を促すと、1人の層が0人になる」という見立てに対して、国際比較では女性の就業率が高い国ほど出生率が高いという逆の相関が知られている。 第17回出生動向基本調査では、第1子の妊娠がわかったときに就業していた妻の就業継続率は2020〜24年出生で 80.5% (正規 88%、非正規 56%)、 理想の数の子どもを持たない理由の最上位は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」52.9%(妻35歳未満では 73.3%)である。 就業と出生の関係は、ここからは決まらない 出典: 国立社会保障・人口問題研究所『第17回出生動向基本調査 結果の概要』図表7-7・9-4(2026-09-11・速報)
  6. 性別で見た給付の差。 平均寿命は女 87.33年・男 81.35年だが、受給期間の比較に使うのは65歳の平均余命で、 女 24.52年・男 19.68年、差は 4.84年である(2025年簡易生命表)。 65歳から男女とも同額の満額を受給し、年金額と死亡率を固定した比較では、 差 4.84年 × 基礎年金の満額(2026年度 847,300円)= 410万円 になる (推定・名目・割引なし。厚生年金と医療・介護は含まない。仮定上の比較であって、実際の男女の平均給付額の差ではない)。 女性の長寿による給付の多さを出産・養育で相殺する正当性が制度に暗黙にあった、というのは著者の仮説で、1985年の白書や答弁からは裏づけられない(第2部)。 作り直すなら、紐づける先は性別ではなく親である 出典: 厚生労働省「令和7(2025)年簡易生命表の概況」表1 主な年齢の平均余命日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」
  7. 言い方。 「3人育てることは大半の仕事より貢献している」とは書かない。第3部の保険料総額は所定の就業経歴を仮定した参考値で、貢献の順位や補償額を導くものではない

ここで止める。この置き方の妥当性は、本論から証明されていない。答えていないことの方が多い。 第3号の在り方は、2026年9月に始まった厚生労働省の検討会と、これから読む人に渡す。

出典

本文と図に出てくる数値は、すべて下の資料に当たって確認している。 推定値を使う場合は、その旨と計算式を併記する。

  • 厚生労働省「公的年金制度の沿革」
  • 厚生労働省年金局「年金制度の意義・役割とこれまでの経緯等について」(2022-10-25 社会保障審議会年金部会 資料2)
  • 衆議院 法律データベース 昭和29年 厚生年金保険法
  • 財務省 財務総合政策研究所 小林航・渡部恵吾「日本の公的年金制度における財政方式の変遷」(二次資料)
  • 参議院常任委員会調査室「我が国の人口構造と人口推計」
  • 厚生労働省「公的年金各制度の保険料率算定方式の推移」(第1回社会保障審議会年金数理部会 資料・2001-12-25)、日本年金機構「厚生年金保険料率の変遷」、厚生労働省「平成16年財政再計算」(いずれも 2026-09-12 取得)
  • 厚生労働省「平成16年財政再計算」(04-12-5, 04-12-9, 04-03)
  • 厚生労働省年金局数理課「平成21年財政検証結果レポート」(第1-2-5図・第3-8-7図)
  • 厚生労働省年金局数理課「平成26年財政検証結果レポート」第1章 第1-2-5図
  • 国立国会図書館 調査と情報 No.1071「2019年年金財政検証の概要と評価」表2(原資料: 厚生労働省 第9回社会保障審議会年金部会 資料2-1)
  • 国立国会図書館 調査と情報 No.1295「2024年年金財政検証の概要と評価」表2(原資料: 厚生労働省 第16回社会保障審議会年金部会 資料2-1)
  • 厚生労働省年金局「年金額の改定ルールとマクロ経済スライドについて」(2018-07-30 第3回社会保障審議会年金部会 資料2)
  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
  • 厚生労働省 人口動態統計
  • 厚生労働省 2024年(令和6年)財政検証結果
  • 参議院調査室「我が国の人口構造と人口推計」図表7(原資料: 厚生省人口問題研究所「日本の将来推計人口(昭和56年11月推計)」)、社人研「将来人口推計の方法と検証」(2011)、厚生白書(昭和59年版)、国会会議録 1984-08-01 衆議院社会労働委員会(厚生省年金局長答弁)
  • 厚生労働省「令和6年簡易生命表の概況」「令和7年簡易生命表の概況」/総務省統計局「人口推計(2024年10月1日現在)」/総務省「労働力調査」(労働政策研究・研修機構「早わかり グラフでみる長期労働統計」図12 の表より)
  • 厚生労働省年金局数理課「平成26年財政検証結果レポート」第1章(モデル世帯の定義)
  • 厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第2 公的年金制度の財政方式」
  • 国立成育医療研究センター「日本における0-18歳の子育てに要する費用の調査: ウェブアンケート調査2024」(日本公衆衛生雑誌 2025年10月・DOI 10.11236/jph.25-023。プレスリリース 2025-10-16)
  • 内閣府「インターネットによる子育て費用に関する調査」(2009年度・2010年3月公表)(参考)。原典は 2026-09-12 時点で削除されており、国立国会図書館 WARP の保存版から転記
  • 国会会議録 第101回国会 衆議院社会労働委員会 第30号(1984-08-01)厚生省年金局長答弁(発言289・291)
  • 国会会議録 第159回国会 参議院厚生労働委員会 第19号(2004-05-25)厚生労働大臣・年金局長答弁(発言34・42・48・190)
  • 厚生労働省「育児期間の国民年金保険料免除制度」(2026年10月1日施行)
  • 日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」「老齢年金」「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」「産前産後休業期間中の保険料免除」「育児休業等期間中の保険料免除」「国民年金保険料の産前産後期間の免除制度」「加給年金額と振替加算」「遺族基礎年金」
  • 厚生労働省「育児休業等給付について」、こども家庭庁「児童手当制度のご案内」「幼児教育・保育の無償化」、文部科学省「高等学校等就学支援金制度」(2026年度 説明会資料を含む)、国税庁 タックスアンサー No.1180「扶養控除」
  • 厚生省『厚生白書 昭和60年版』『昭和61年版』、国会会議録 第101回国会 衆議院社会労働委員会 第29号(1984-07-26)発言267、第102回国会 参議院社会労働委員会 第15号(1985-04-16)発言118・122・124・156
  • 厚生年金保険法 第78条の13、国民年金法 第7条(e-Gov 法令検索)、厚生労働省年金局「第3号被保険者制度を巡る現状について」(国民年金第3号被保険者制度等に関する検討会 資料2・2026-09-04)
  • 厚生労働省『令和6年版厚生労働白書』資料編「公的年金被保険者数の推移」、厚生労働省年金局「令和5年度」「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」、社会保障審議会年金部会「議論の整理」(2024-12)、厚生労働省年金局「令和7年法律第74号の概要等」(2025-06-30)
  • 財務省「扶養控除の見直しについて(22年度改正)」「所得税法等の一部を改正する法律案要綱」(第174回国会)、総務省「地方税法等の一部を改正する法律の概要」(平成22年度)「個人住民税の諸課題」(2022-10-25)、国税庁 タックスアンサー No.1191・No.1195
  • 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」、健康保険法 第156条・第161条、地方税法 第703条の4・第703条の5、厚生労働省「国民健康保険の保険料・保険税について」「未就学児の均等割保険料(税)の軽減措置に係る考え方」「「年収の壁」への対応」、こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」「子ども・子育て支援金の概要について」(2025-12-26)
  • 労働政策研究・研修機構『ユースフル労働統計2025』第21章 表21-1、全国健康保険協会「令和8年度保険料率のお知らせ」「令和8年度の協会けんぽの保険料率」、厚生労働省「令和8年度 雇用保険料率のご案内」、厚生労働省年金局数理課『令和6(2024)年財政検証結果レポート』p.117
  • Bundesverfassungsgericht 2001-04-03 判決(1 BvR 1629/94)・2022-04-07 決定(1 BvL 3/18 ほか)、Bundesministerium für Gesundheit「Beitragsdifferenzierung nach Kinderzahl」「Kinderlosenzuschlag」、Deutsche Rentenversicherung「Kindererziehung: Ihr Plus für die Rente」、L'Assurance retraite「Être parent」、Service-Public.fr F2705、Pensionsmyndigheten「Hur påverkar småbarnstiden din pension?」、국민연금공단「지역가입자」「임의가입자」、National Pension Service「Childbirth credit」
  • 国会会議録 第211回国会 参議院本会議 第7号(2023-03-08)発言17・18
  • 国立社会保障・人口問題研究所『第17回出生動向基本調査 結果の概要』(2026-09-11・速報)『人口統計資料集 2026年版』表4-3、法務省「民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について」、厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」、厚生労働省「令和7(2025)年簡易生命表の概況」

年表の項目数 19 件/出生率の実績 79 年分(1947–2025)。 2026-09-12 取得。第3号被保険者・負担の算定・保険料総額・補論の資料は 2026-09-13 取得。